北朝鮮の核実験に付随した各国の思惑について 2006/10/17


☆去る10月9日に、北朝鮮が核実験を強行したと報道されました。
実験自体は、その後の米軍や各国の調査で、「早期爆発」と呼ばれる不完全な核反応が起き、半分失敗であった模様ですが、それでも小規模とは言え『核爆発』を起こしたのですから、世界から非難されるのは当然の結果でしょう。
このまま北朝鮮が世界から孤立し、各国の様々な制裁を受けるのは自業自得とは言え、指導者層はともかく、かの国の一般の人々にとってはますます過酷な状況となるのは必定であり、『大変だな』という想いと同時に、いよいよ『煮詰まってきたな』という感慨を抱くのは誰しもだと思います。
 一部の報道では『60数年前の日本を想起させる』というような表現がありましたが、過去日本が国際連盟を脱退した時の状況とは、今回は全く違っており、当時の日本はドイツやイタリアという枢軸国と同盟するという選択肢が残されていたわけで(結果としてそれが大間違いだったわけですが)例え今回、北朝鮮が国連から脱退したとしても、相手にしてくれる国は皆無であり、より悲惨な結果をもたらす事は必然でありましょう。

☆しかし、北朝鮮の今後はともかく、関係各国の思惑と行動が、この一連の動きの中で、より鮮明に現われてきたと感じられます。
 アメリカのブッシュ政権は、大義名分としては中国に配慮した形で、武力行使のオプションを国連決議から外しました。 9.11以降、自ら先頭に立って、アフガンやイラクに対し国連決議を無視して侵攻した勢いとは全く違った反応を、今回は見せております。 過去米国が『テロ国家』と非難したこれらの国々に対する、このスタンスの違いの原因について、それを『キリスト教徒対イスラム教徒の戦い』として理解する向きもあり、北朝鮮がイスラム圏ではないから米国は冷静なのだとする意見も存在します。 また、イラク侵攻は石油資源の利権確保が主目的であり、フセイン打倒は単なるオマケであったとする見方もあり、対して北朝鮮には『何の魅力もない』から、敢えて武力行使をしてまでも攻め取る必要も無いのだとする意見もあります。
 ただ、もう少し穿った見方をするなら、現在の日本はアメリカの軍需産業にとっては云わば『大のお得意様』であり、その理由の大きな一つが、他ならぬ北朝鮮の脅威にあるわけです。 若し北朝鮮が開放されその脅威がなくなれば、当然、多額の予算をかけて共同開発している『ミサイル防衛計画』などから日本がすぐに手を引き、また、バカ高い『イージス艦』などの購入も大幅に縮小される事は容易に予測されるわけで(対中国という要素は依然として残りますが)、北朝鮮の存在は、いわば『日本の安全』を脅かすアンチテーゼとして、格好の『材料』となっているのです。 それを良く知っている米政府は、戦略的に北朝鮮を『生かさず殺さず』の状態に置いておく事は理に適った行為であるはずなのです。 また、仮に北朝鮮が崩壊したとした場合、数百万とも予測されている『難民』が発生し、それに対処する各国の、支援に要する費用も莫大なものが考えられ、あまり『てんごろやすく』米軍が制圧作戦を展開する訳にも行かないのも事実でありましょう。

 また、そもそも北朝鮮成立の当事者であり、ずっとその宗主国の位置付けであった中国にしても、従来は自国に有利な『一枚の外交カード』であったものが、特に最近は中国共産党の政策そのものが自由化路線を邁進しており、その意味からも純粋路線をゆく北朝鮮への押さえが利かなくなって持て余し気味となっており、今回の核実験強行で『匙を投げざるを得ない』かっこうとなったのも事実でありましょう。 勿論他国、特に日本や韓国、そして米国に対する外交カードとしての有効性はいまだに残っており、すぐに見捨てる行動は取らないとは思われますが、中国の指導者層にしても、北朝鮮の指導部が『何を考えているのか解らない』という想いは我々と同じレベルなのではないでしょうか。 そして、中国国内産業へのレアメタル等の安価な資源供給国としての位置付けもその態度に影響している筈です。
中朝国境を越えるであろう難民の数も莫大なものが予想され、やはり中国としても、この自らが創りだした子分に対し『生かさず殺さず』の態度を取らざるを得ない立場にあると考えられます。

 逆に、今回もっとも苦慮しているのは当然、同一民族である韓国でしょう。 『太陽政策』などと、無邪気にも宥和政策を掲げてきた盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領は完全に面子を失いました。 彼はそれ以前から、その基本政策や国家戦略そのものに韓国国民からも様々なブーイングを受けており、盧政権の命運も余り長くはないものと思われます。
若し北朝鮮が崩壊した場合、その後始末を一手に引き受けなければならない韓国の人達の今後は、前世紀の西ドイツの例を見るまでもなく相当な困難が待ち受けている事でしょう。彼等は今世紀の早い時期に、その親戚縁者を助けるために、様々な苦労をせねばならないに状態に置かれることと思われます。 (もちろん彼等がそのハンデを跳ね返し、それをバネにして、より大きく飛躍する、民族としてのバイタリティは十分持っていると確信しておりますが。 韓国が今の倍の国力を持ったとき、世界に対する彼等の影響力は、相当なものになると予想されます)

☆以上のことは、当然日本政府としてまた外務省などの諸機関は十分想定しているでしょう。 我々日本人として、かの国が一日も早く『まともな国になる』ことを願っているわけですが、現代世界のポリティクスは、相当それとは違う思惑が交差しており、この朝鮮半島問題をうまく『軟着陸させる』ためには、今しばらくの時間と、そして幾許かの僥倖も必要であると思われます。 朝鮮半島の非核化や拉致問題などの解決を目指すことは、我が国の外交の急務ではありますが、各国が振り回す様々な外交カードに振り回されることなく、日本民族としての『国家の品格』を踏まえた取り組みを現安倍政権に期待したいところです。

 こうしてあらためて北朝鮮問題を俯瞰してみると、かの国の一般の人々が現状の困難な状態から真に開放されるのは、その実質的な宗主国である中国において、共産党政権が解体されるかあるいは真に民主化された(つまり中国がフツーの国になった)その後になるのではないでしょうか。 要するに『親分』である中国共産党が消失した段階で、現北朝鮮政府のその国内における大義名分と存在意義は完全に潰えることとなる訳であり、それがひとつのターニングポイントとなる筈なのです。 そして現状の中国政治の流れから推定した場合、その時期は北京オリンピック(2008年)以降、現在加熱している所謂チャイナバブルが崩壊した後の、比較的早い時期であると筆者は勝手に推測しておりますが、皆さんの予想は如何でしょうか。




inserted by FC2 system