またも政府の大盤振る舞い 調整インフレ論再燃か? 無節操な財政出動に 喝!  2009/ 4/11



☆昨今のニュースでは、政府提出の大型補正予算案が与野党の賛成多数で可決され、その規模は単年度で15兆円、累計では57兆円にのぼると発表されております。

 世界同時不況への対応を大義名分に、ろくに吟味もせずに急遽造り上げた内容でもって、なりふり構わない大盤振る舞いを、後先を考えずに政府自民党は景気よく実行に移す構えです。
勿論これは、議員さん達にとっても官僚達にとっても、あくまで『他人の金』という意識だからこそ出来ることなのでしょう。 財務相の人たちはもうヤケクソになっているかも知れませんね。 小泉政権以来、『痛みを伴う構造改革』路線で国民に我慢を強いてきた諸々の成果を、いともあっさりと葬り去ってしまうようです。 この10数年間、我々は何のために様々な痛みに耐えてきたのでしょうか。 麻生氏にとっては、ずっと痛みなど感じてはこなかったようですが。

 今回の崩落的な財政出動で、国が抱える負債はより一層拡大する事となり、地方自治体の抱える負債と合わせると、優に1000兆円は超えることとなるはずです。 これは国内総生産比でいうとGDPの1.8倍から2倍近くにあたり、将来の世代が抱える負の遺産の額は、より一層大きなものとなってしまうわけです。

 1990年代のバブル崩壊以降、日本が抱えてきた構造的な課題によって拡大したこの財政赤字には、特に国の『特別会計』など、大々的にメスを入れなければならない問題がずっと尾を引いており、以前、塩爺(塩川前財務相)が『母屋では粥をすすっているのに、離れではスキヤキを食べているが如く』と表現した通りの野放図さとなっておりますが、この課題に関しても今回のドサクサに紛れて、取り敢えず置き去りにされてしまった模様です。

 しかし世界的に見た場合、現在多額の財政出動を余儀なくされているのは、日本よりむしろ他の諸国であり、先般の第2回金融サミット参加国(G20)は、軒並み大規模な国内金融対策の打ち出しを迫られております。 この時のG20宣言には、世界全体で5兆ドルの景気刺激策を実施することが盛り込まれ、世界経済成長率を4%以上押し上げ、数百万人の雇用創出を謳っており、世界全体が強調して財政出動することにより、今年度に見込まれている世界経済のマイナス成長を短期間に収束させることを目指しております。

今回の震源地米国のオバマ米大統領は、早々と大型の国内景気対策を決定し、各国にも国内総生産比で2%以上を念頭に置いた積極財政の展開を求めています。
この、各国政府が大判振る舞いを続けざるを得ない流れは、ある程度の期間続くと予想され、今後、世界主要各国は、それぞれが現在の日本と同様の、巨大な債務を自国内に抱えることとなると考えられます。 つまり『世界同時借金大国化』が一層進むと予想されるわけです。
勿論その中でも、BRICsなど、国土や資源などに比較的余力があり、また今後の大幅な国民所得の伸びも期待できる国々は、比較的早期に景気低迷から脱出できるとは思いますが、それ以外の国は、GDP比で2倍以上の債務を抱えて呻吟することとなるとも予測されます。

 国家が借金漬けになった場合、それをうまく解消させる手段はあるのでしょうか?
実は、多大な国の負債を一気に消滅させる手段は過去から存在しており、日本政府自体も、以前にその手を使った経験があることは、各位ご高承の通りです。
年配の方は記憶にあると思いますが、太平洋戦争終結後の日本において、昭和21年2月に緊急金融措置が発動され『新円切換と預金封鎖』という無茶苦茶な手段で、それまで国民が保持していた金融資産の大半を凍結してしまいました。 そして同時に生起していたハイパーインフレによって、それをそのまま紙屑同然に変えてしまったのです。
 当時の物価指数をみてみますと、戦中と戦後の比較でみると

  昭和19年と24年比で 物価指数は59倍 ⇒ 5900%!   (日銀データによる消費者物価指数)

となっており、当時は、10万円がわずか5年で1700円ほどの価値になってしまった訳です。
勿論、これは戦後の混乱期でありGHQという占領軍が存在していたからこそ、破綻した大日本帝国を清算するため、強引に行うことが出来た事であり、これと同様のことを平和時に行うことはまず不可能と思われます。

 しかし、平常時においても各国では似たような事も行われているのです。
それが『調整インフレ』なる手法で、政府が自国のインフレ率を意図的にコントロールしようとして、所謂『インフレターゲット』を設定し、物価の上昇率を調整する意図を持って、発行する通貨などの絶対量を調整するやり方なのです。
物価上昇率に対し、一定の目標を定めた金融政策を行おうとする、このインフレターゲット政策は、現在、世界で約20ヶ国が導入しております。ただ、その大方はインフレ率をいかに『押さえるか』という方向に主眼が置かれてはいますが。

 そして日本がこの方策の逆を行う、つまり国が通貨発行量を極端に増やすか或いは国債を大量発行してこれを日銀に買い取らせるなどの手法をとれば、『平成のデフレ不況 』と呼ばれて久しい現状から一転して、インフレを意図的に生起させることが可能となるのです。 若し日本国内がインフレ傾向になれば、円安の方向に触れることとなり、苦戦している輸出産業にも福音となるはずなのです。 勿論過去にもこの政策の導入については議論があったようですが、思惑通りの範囲にその影響を収めることが出来るか否か自信が持てないという理由もあり、また日本の国力の相対的低下をもたらすという事から、その政策はこれまで見送られてきました。

 しかし今後、世界の他の国でも日本と同様の不況によるデフレ傾向となった場合、『表向きデフレ克服を目的』として、それを行う国が出てくることは大いに考えられます。 アメリカにおいても、FRB議長に就任したベン・バーナンキが、インフレターゲット論の主唱者であり、将来において米国で導入される可能性が大いにあると見られているのです。

 日本、アメリカ、EUそしてBRICs諸国の負債額が、各々のGDPの2倍程度を越える水準となった場合、各国政府が調整インフレ政策を選択せざるを得なくなる可能性は大きいと思われ、そしてそのときは『早くやったもの勝ち』となるでしょう。
 その場合、世界で最もしわ寄せが及ぶのは当の国々よりもむしろ、他の開発途上の『南の国々』となるのは必定と思われます。 その場合、現状よりもっと酷い南北間格差が生じ、世界は政治的経済的にも大混乱を来たすこととなるやも知れません。 各地でゲリラなどの活動も活発化してくる可能性も大いにあると思います。

 当面の、各国の調整インフレの落とし所としては、負債総額をGDP程度にまで持ってゆくことを意図して、通算で200%程度の物価上昇を狙うと想定できますが、現実にそれを生起させた場合、各国政府がそれを思惑通り効果的に制御することは難しいと思われ、想定の範囲に留まらず、数百%の物価上昇が起こる可能性も考えられます。 今まで、『対デフレ政策としてインフレターゲットを導入した経験』など、殆ど誰もないのですから、そこにどんな魔物が潜んでいるか、誰にも解らないのです。

 一国だけの調整インフレで終わるなら、各人の持つ金融資産を、他国の通貨に換えておいたりすれば済むことですが、『世界同時調整インフレ』が生起した場合、古くからの手法である、貴金属などを現物として持つか、金などの商品ETF等に投資するしか手はないと言われております。

 いずれにしても、各国の一般市民の財を意図的に目減りさせる調整インフレなど、絶対にやってほしくありませんが、このままの先行きから推測すると、オバマ政権の後期(彼の政権が8年続くとして)あたりに、またもやアメリカ発の調整インフレの連鎖が生起するかも知れません。 彼はグリーンニューディールでの景気回復を打ち出してはおりますが、彼の国の財政パラダイムは、とてもそのレベルの取り組みでは変えられそうにありません。
 当分アメリカがシニョリッジ(基軸通貨発行益)を手放す気はないと思われますので、米国発の調整インフレは、すぐさま世界中に影響を及ぼすこととなるでしょう。 1929年に続き、またもや人類は、パンドラの箱を開けてしまうのでしょうか。


 調整インフレ期待の、政府の野放図な財政政策は即刻やめるべし!







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