最近話題の本『日本は世界5位の農業大国』 2010/ 7/29
☆世間では、日本の食糧自給率は41%と危機的状況にあり、日本農業への大幅な助成によるてこ入れが急務である!などという言葉が新聞紙面やTV画面上で踊っております。
筆者もこれについては、これまで漠然とした意識しか持っておらず、農水省やそれに乗っかった民主党のプロパガンダに対しても、多少のうさんくささはあるものの、大して気にはしていませんでした。
先日、テレビのBS8でウイークデーの20時からやっている『BSフジLIVEプライムニュース』を見ていた所、首記の本の著者浅川芳裕氏が出演しており、大変納得性のある発言をしておられましたので、早速購入して読んでみました。(番組放映は7月7日)
様々な書評にもありますが、日本の農業問題について『目からウロコ』の内容が多かったように感じました。
勿論、筆者としても、この本の内容を即全て鵜呑みにするつもりはありませんが、様々な具体事例や海外のデータなど、大変納得性が高く、またこれまでに、この本にここまでボロクソに書かれれた農水省や農協あたりからの具体的な反論なども殆ど無い模様で、書の内容は概ね事実に近いものであるとして良いと思われます。
本の主な論旨を挙げてみますと
☆農水省が声高に主張している食糧自給率41%というのは、彼等が勝手に作り出した『カロリーベース基準』に基づくものであり、算定の基準に全く納得性が無く、手前勝手な屁理屈であり、世界中のどこの国も採用していない日本の農水官僚の独自基準である。
またその国別比較表は、2003年に農水省が一度作っただけであり、その詳細の発表も拒んでおり、その後の推移も把握してしない。
よって彼等の発表した値は実態と乖離したものでしかない。
☆日本の農家の大半は零細であり手厚い国の保護が必要である、という農水省の論は全くのデタラメである。
『兼業農家』は農業生産だけ見ると零細であるが、主たる収入が他にあり、その実態は『家庭菜園付きサラリーマン』或いは『家庭菜園付き年金生活者』が大半であり、決して年収が100万円そこそこで食うや食わずの生活を送っている人達ではなく、彼等の実際は、税金の安い農地という固定資産も沢山持っており、一般の人達よりむしろもっと裕福である。 そこに民主党はバラマキを行い、税金を流用して票田確保を図っている。
☆一部の『専業農家』は、農水省や農協などに頼らず、自力で大規模化を図り、様々な努力やイノベーションを重ねてきており、その実力は間違いなく世界のトップレベルにある。
彼等は企業家として、世界を相手にするだけの実力を蓄えつつあり、現在は農水省の規制や農協などからの様々な妨害が阻害要因として存在しているが、それらの枠を取り外して彼等の企業活動を伸ばしてやれば、日本は農産品が輸出の大きなウエイトを占める『農業大国』となることも十分可能でありその実力もある。
☆現在問題となっている『耕作放棄農地』問題は、その根本原因は農水省の政策にある。
耕作をしないほうが、大規模農家に農地を貸して入る地代より高い助成金が入るという農水省の愚策の結果である。
これらの、税金を無駄に使い、市場原理を無視した農水省の政策は、農家の自立を奪い、彼等を国に隷属させ、農家を農水省と農協の利権の踏み台とし、政権党の票田として固定させようとする政策の表れである。
とまあ、いろいろ筆者の知らなかったことが沢山書かれており、興味深く読ませてもらいました。
(他にも、様々なテーマが述べられておりますが、ここでは割愛させてもらいます)
あわせて同様のテーマについて、これも最近話題になっている、農家の立場から農協について書かれた『農協との「30年戦争」』(著者:岡本重明氏)という本も読んでみました。
ここにも同様に、現在の日本の農業/農政についての様々な矛盾や課題が、現業の農家からの生々しい怒りを込めた視点から、浮き彫りにされておりました。
やはり、農水省と農協を軸とした戦後の農業政策が、かつては日本国民に取り有益ではあったものの、現在ではそれらは修復不可能な制度疲労を起こしており、農水族議員/族官僚とそれを取り巻く農協などの団体が、国民の税金から利益や権益を貪るためだけの、ツール/牙城と成り下がっており、一刻も早くそれらの寄生虫を退治せねばならない状況となっていることが良く理解できました。
勿論、それぞれの立場からそれぞれの言い分があることは理解できますが、ならば、農水省などは浅川氏の提示した諸問題に対し、納得できる反論をすべきと思います。
情報社会の現代に於いて、反論が無いと言うことはそれを認めたことになる訳であり、やはり浅川氏の論に軍配を上げるべきと思っております。 この本を読まれた方、どう思われるでしょうか。
☆さて、ここからは100%筆者の食糧問題についての持論です。
筆者の、食糧問題についての過去からの持論は、
『人類の食糧問題は、究極的にエネルギー問題に置き換えが可能である』 というものです。
とどのつまり、人間が食料から摂取し消費するのは、最終的にはエネルギーなのです。
その形が、蛋白質や脂肪、澱粉といった様々なアミノ酸化合物であり、これらの穀物や肉類、野菜などは、究極的には植物が太陽エネルギーを借りて作り出したものであり、そこから、我々動物は活動のエネルギーを得ている訳なのですから。
現代科学は、既に同様のことを人工的に行う事が可能になっており、蛍光灯やLEDなどの人工照明で植物を育てる『野菜工場』などは既に一般的になりつつあり、また(うまいかまずいかは別にして)石油などから工業的にアミノ酸化合物を直接合成することも可能となっております。
よって、人類社会のエネルギー問題が根本的に解決された時点で、この食糧問題も同時に完全に解決されることとなるのです。
筆者の予測では、多分20〜30年後までには『核融合エネルギー』の開発が行われ、この問題は基本的に解決されると考えております。
※これらの論の詳細については、このHP『離陸社会への展望 第6章B項』を参照ください。
農水省大本営の言う『世界の有事で食料の輸入が止まったら、日本人はすぐに飢え死にしてしまう!だから農家を無理矢理にでも育成して、食料の自給率を上げておかねばならないのだ!』という食糧安保論は、論理的に成り立たない全くのデタラメだという事実について、もう少し具体的に考えてみましょう。
先述の浅川氏の論と合わせ、一例として、現代日本の稲作を例にとってみることにします。
江戸時代、基本的に有機農業の時代においては、北海道と沖縄を除く日本国内の石高は、2600万石といわれておりました。同時に、日本の人口も2600万人程度でずっと推移してきたそうです。つまり、人一人が年間に消費する米の量が一石(約150Kg/180L)とされてきたのです。そしてその1石を生産するのに必要な田の大きさを1反といっておりました。
要するに、1反(300坪)でできる米の量が1石であり、これは米俵2.5俵にあたります。 (太閤検地以前は、1反は360坪)
ちなみに、人一人が継続して担いで運べる最大の重さは60Kg程度であり、よって米俵1俵は60Kg/72Lと決められておりました。
有史以来の有機農法では、水稲稲作においては、頑張っても1反で一人の人口を養えるだけの米を作るのがやっとだった訳です。
ところが、現代においては、『畝俵』(せびょう)と言われる如く、米作りのうまい農家は、田1反から10俵もの収穫を上げております。
つまり、単位面積あたり、江戸期の4倍近い米の収穫が現代農法では可能となっているのです。
そしてこの大きな要因は、米の品種改良等もありますが、より大きな要素としては
1.トラクターなど、農具の機械化の進展により、深耕や大規模な土地改良が可能となった事
2.有機肥料に換わる、より効率的な様々な化学肥料の普及
3.様々な農薬や除草剤の開発と経常的使用
が挙げられます。 そしてこれらにより、サンデー農業などと言われる如く、サラリーマンの片手間『でも』農家ができるようになり、また収量も飛躍的に向上した訳です。
で、上記の3要素に共通するものがあるのが解りますか?
そうです。これらは全て『石油』に依存しているわけなのです。
農水省が言っている如く、有事に於いて他国からの輸入が止まった場合、一番に枯渇するのは、食料ではなく石油になるでしょう。 世界のニーズからして、その可能性の方が余程高いと思います。
そのための危機管理として、経産省が頑張って政府と民間併せて現在200日程度の石油を備蓄している訳なのです。
そして若し石油が切れた場合、いくら農水省が頑張って『食料自給率向上』を今更叫んでみても、その前提が根底から崩れてしまう訳で、彼等のお題目は、もとから屁の突っ張りにもならん絵空事でしかないのです。
石油が無くなっては、今の農業は何もできません。それとも農水省は、農家の人達に鍬で田圃を耕させてコエタンゴを担がせ、毎日朝から晩まで草むしりをさせようとしているのでしょうか。
本気で農水省は有事に備えて江戸時代の『有機農業』に戻ることを進めたいのでしょうか。
彼等の、何とかのひとつ覚えの能書きの如く、若し日本と世界との貿易が2〜3年以上途絶えたとした場合、論理的に見ても、日本人の食料は有機農法に頼らざるを得ないこととなるわけなのですが。
そしてその場合、少なくとも農地は今の3倍は必要となります。
これを大真面目に農水省の連中は考えているのでしょうか? 彼等の頭の中をのぞいてみたくなりますね(^0^)
もちろん、当の彼等もそんなことは百も承知で、ただ国民と不勉強な代議士達の目をくらます為だけに設えた『取り込み詐欺』の台本に過ぎないという事なのでしょう。
幼稚園児以外は騙されちゃ駄目だよ(^_-)〜☆
もちろん、日本以外のどの国も、世界の貿易が全面停止することを前提にした自国の食糧安保を、大真面目に考えている所は無いそうです。
農産物はあるけど石油が出ない国々/石油は出るけど農産物は採れない国々 は相補関係にあり、貿易を止めてしまったら双方が困るわけですから。 両方採れる米国などはむしろ例外の部類ですし。
世界中のまともな国はみな、『百年河清を俟つ』ことはしないということなのです。
結論、いま農水省や農林族議員達が声高に叫んでいる、日本の『食糧安保』については、100%陰謀であり、彼等は自分達の権益確保と票集めの為だけに大本営発表を繰り返し税金を濫費する、狼少年/寄生虫以外の何者でもないと断定せざるを得ませんね。些か過激な言い方かも知れませんが。
農水省関係者諸君! 食い物の恨みは恐ろしいぞ! 国民を食い物で脅すと地獄に堕ちるぞ!
参考文献
『日本は世界5位の農業大国』浅川芳裕氏著 講談社+α新書 2010年2月
『農協との「30年戦争」』 岡本重明氏著 文春新書 2010年1月