◎桃太郎説話のもう一つの側面


『桃太郎はなぜ桃から生まれたのか?』という疑問を抱いた事は無いでしょうか?
※桃から生まれたから桃太郎なのだ!という人もいるかも知れませんが、金太郎は『金』のインゴットから生まれた訳ではなく、人間の母親から生まれたのです。 ( 金太郎の母親を『山姥』としている話もあるそうです )

これを他愛無い御伽噺だからと片付けてしまうのは、先述のリアルな歴史的事実を踏まえた伝説が下敷きにあったとするなら、何ともちぐはぐな感じがするのは否めない所であります。
普通に生まれた元気な赤ん坊が鬼退治に行くストーリーとしても、いっこうに構わない筈なのです。

桃太郎説話の冒頭に出てくる『川を流れてきた桃から赤ん坊が生まれた』というエピソードは、始祖伝説として東アジア一帯に広く流布されていた『始祖卵生神話』または『始祖箱舟漂流神話』のバリエーションではないか、という説もあり、その影響かとも思われるのです。
ある部族の祖先(始祖)は卵から生まれた、或いは舟で流れてきた、とする創生神話が古代において各民族に受け継がれており、地域や部族により、その神話に様々なパターンがあった、とされております。
 (桃太郎方式の誕生説話は『果成型』と呼ぶそうです。  また始祖創生神話は、他にも『獣祖型』や『感精型』などがあるそうです)
この桃太郎説話の中に、何らかの始祖神話の影響が残っているとしたら、その元はどこから来たものか、どういう創世神話であったのか、その話の成立には又別のファクターが付随している可能性があり、これも興味の尽きない所ではあります。

桃太郎、つまりそのモデルとなった吉備津彦命は、やはり現地吉備の王であり、その部族に伝承されていた始祖創生神話があり、それが後の世まで密かに伝えられ、それを元にして『桃太郎は桃から生まれた』とされたとは考えられないでしょうか。
吉備王国が後の世に大和王権と連合し、その時点で自らのオーソライズの為、その始祖を天皇家の血筋に結び付けた時、当初から吉備に伝えられていた始祖伝説を『封印する』必要があった筈なのです。
公式には吉備の支配者は大和の血筋であるという事にしても、吉備の人々の記憶の中には古くからの伝承が残り、それが後世に伝えられたものが桃太郎説話に反映された、と捉えれば、スムーズに理解できると思うのです。

因みに、『桃』の原産地は黄河上流域とされており、日本へは弥生期には既に伝わっていた模様で、古くから日本人には馴染み深い果物であり、記紀の創世神話(伊耶那岐命が活躍する段)にも登場しております。(上古においては、神仙の果物/薬 として珍重されていた模様です)
現代の岡山と同様に、古代吉備の人達に取っても桃は既に良く知られていた『名産品』であったのかも知れません。


 (追  記)
先日のテレビ番組(トリビアの泉)を見ていたら、また桃太郎の話が取り上げられておりました。
この番組では、桃太郎説話のオリジナルは『桃太郎は桃から生まれた』、つまり『果成型』ではなく『川を流れてきた桃を食べて若返ったおじいさんとおばあさんが子供を作った』という所謂『回春型』の物語であり、明治20年に尋常小学読本に採用される時、明治政府によって果成型の話に作り替えられた、というふうに結論付けておりました。

確かに、江戸後期に沢山書かれた所謂『赤本』の版にはこの回春型の話も多かった様ですが、先述の如くもともとこの桃太郎説話には全国的にも様々なバリエーションが流布されており、東北から九州にかけ様々な地方にその地独自のパターンがあり、その中にはこの果成型のものも多数含まれており、現在の桃太郎説話が明治政府の全くの創作の産物というのは不正解であり、種々のバリエーションの中から小学生の教科書に相応しい内容のものを選択して採用し、それがその後オンリーワンの話として定着したとするのが正解なのです。

先項にも収録しましたが、古く(江戸期以前)から岡山県に伝えられていた桃太郎説話は明らかに『果成型』の話であり、また、武田修一氏
(岡山市)所蔵の、安政六年制作とされている『桃太郎絵巻』の内容 − 徳川将軍家に伝えられていた原本を模写したものであるとの事 − も
『桃から生まれた桃太郎』として描かれており、江戸期においても『正統な』桃太郎説話は、むしろこちらの方であった模様です。

以上より推定すると、岡山県における桃太郎説話の原型は、やはり『桃から生まれた桃太郎』が正解であるようです。


明治政府が桃太郎説話を『果成型』として『新たに創作した』というのは間違いだった訳です。
つまり、トリビアの泉で放映された桃太郎の話は『トリビア』ではなく『ガセビア』だったのだ!

                                                                       (2006/1/24追記)


  ( この項 おわり )


  ※本稿(桃太郎説話)の執筆に当たっては『おかやま桃太郎伝説の謎 山陽新聞社編』他を参考にさせていただきました。




☆桃太郎説話について U

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